「和音くん、昨日はどのくらい練習したの?」

「昨日……は、8時間ほど」

「その前は?」

「その前も、同じくらいかと」

「そう……」

水琴さんはそう言いながら、僕の手に視線を落とす。

それから少しだけ考えるような素振りをして、顔を上げた。

「和音くん、深呼吸しましょう」

「え?」

「はい、まずは静かに息を吐き出して」

呆けた顔で水琴さんを見ていると、「はい」と促された。

仕方なく、それに従い深呼吸をする。

それを見ている拓斗と花音も、何故か真似をして一緒に深呼吸。

三回ほど深呼吸をしたら、水琴さんはにこりと笑った。

「それじゃあ、もう一度。あまり力を入れずに──」

言う通りに、余計な力を入れないようにして、もう一度最初から通して弾いてみる。

僕には特に何も変わったようには思えなかったけれど、水琴さんは微笑みながら頷いた。

「うん、良くなったわ。……二次は明後日だったわよね?」

「はい」

「じゃあ明日の練習時間は肩慣らしする程度に──やっても一時間以内に収めてください」