先生のレッスン初日は、母が帰国した土曜日となった。

まずはどの程度弾けるのかを知ってもらうために簡単な演奏を披露。

基本はしっかり出来ていると判断され、一週間後に控えた二次予選、そして本選へ向けての練習に重点を置くことになった。

そして、僕たちも水琴さんに簡単な演奏をしてもらった。

母の紹介ならば間違いはないと思ったが……。

まだ二十代になったばかりの彼女に、僕が目指す音が出せているのかどうか。それが知りたかった。

……こんなことを言ったら失礼になるのかもしれないけれど、師事する先生の音というのは非常に重要で、それを真似ていく形になる生徒の立場としては、妥協は許されないところだ。


弾いてくれたのは、J.ブラームスの『5つの歌曲 作品47』より、『日曜日』。

「お休みだからね」

と軽く微笑みながら、ゆったりと奏でられた休日の穏やかな光景。

女性らしい繊細さと清らかさのある音は、疲れた心を優しく包み込んでくれるようだ。


ちらりと向かい側のソファに座っている母を見れば、「どうよ」と言わんばかりのドヤ顔。


……参りました。

貴女の見る目は確かだよ、母さん。