──何もしてあげられない、か。

それは僕も同じことだけれど……。

「拓斗。“敵討ち”なら、出来るかもしれないよ?」

「……え?」

拓斗は顔を上げて僕を見る。

「首謀者が誰だか、分かった」

「──誰!」

ソファから立ち上がり、怒りの表情を作る彼を、今度は僕が見上げる。

「拓斗、ひとつ約束だ。絶対に暴力は駄目だ。花音の敵を討つつもりなら、真正面から勝負だよ」

「……うん、分かった」

頷く拓斗を見て、僕も頷く。

「花音を苛めた首謀者は、同じクラスの浅葱莉子という子だよ。お姉さんが中等部にいてね。3年の、浅葱亜子さん」

「……あれ、その名前」

「聞いたことあるだろう? 去年、コンクールE部門2位だった人だよ」

拓斗はしばらく情報を飲み込むのに黙る。

「一昨年は……1位だった人」

「そう」

「でも去年は、兄さんが」

「そう」

「……逆恨み!?」

その通りだ。

花音を苛めた首謀者には姉がいて、去年僕に負けたことが悔しかったらしい。よほどプライドが高い人のようだ。