黒く、重そうな雲が頭上を流れていく。

先程まで見えていた蒼い空は、すっかりそれに覆われてしまって。

校庭から聞こえてくる運動部員たちの声ですら、呑み込んでしまいそうだった。

「降ってくるかな」

屋上から空を見上げる僕に吹き付ける風は強まり、そこに含まれる湿気が一層濃くなる。

ヴァイオリンを濡らすわけにはいかない。

ケースにレディ・ブラントをしまうと、足早に屋上を去った。



梅雨に入ったら雨の方が多くなる。

そろそろ屋上以外の練習場所を確保しなければ……と思案しながら歩いていると、音楽室の横に並ぶ練習室から出てきた、ヴァイオリンケースを持った人物と鉢合わせした。

「お、和音」

制服の白いシャツを第二ボタンまで開け、裾もズボンからだらしなくはみ出しているワイルド系男子が、軽く手を挙げて笑顔を見せる。

鳴海響也。

良家の子息、息女の集まりであるこの学校には珍しい、明るい髪色の……良く言えば元気なクラスメイト。