「……大丈夫だよ。僕のことは心配しないで。ほら、早く行かないと」

『そう……? じゃあ、また電話するわね』

「うん」

今度こそ電話を切り、一息つく。


──母は、何を言っているのだろう。

花音や拓斗ならまだしも、僕はもう、親に心配をかける歳じゃないんだ。

子どもの頃のように、泣いている弟と妹を慰めることも出来ず、ただオロオロしているだけの存在ではないのだ。

僕はもう、そんな小さな存在でなんか……ない。




カタン、と物音がして、顔を上げる。

花音と一緒に寝ていたはずの拓斗が、眠そうな目を擦りながらリビングに入ってきたところだった。

「兄さん、まだ起きてたの……?」

「うん、今、母さんと電話をね」

「そっか。ごめんね、僕、花音と一緒に寝ちゃって……」

「いいよ。普通ならもう寝る時間だ」

とろんとした目のまま歩いてきた拓斗は、僕の隣にすとんと座る。

「……ごめんね?」

「なにが?」

「僕、考えなしにやり返すとか言っちゃって……。そんなことしたら、かえって花音の立場が悪くなったかもしれないのに」