「……ごめんね。父さんも母さんも、落ち着いて演れないね」

『何言ってるの』

少しだけ怒気が含まれた声が聞こえてくる。

『私たちの方が謝ることよ。貴方は悪くないのよ。それに、本当に悪いのは苛めた子たちでしょう。親御さんにもちゃんと文句言ってやるからね。どういう教育してやがんだこんにゃろー! って』

「こんにゃろーって……天下の『橘律花』が」

『そのくらいの暴言、許して欲しいわね。大事な娘を傷つけられたんだから』

ふん、と鼻を鳴らす母の仁王立ちした姿が目に見えるようで、思わず笑みが零れた。

相変わらず、パワフルな人だ。

見た目は白百合のように可憐なのに。

『あ……それじゃ、もう時間だから切るわね』

「うん、ありがとう、母さん」

頷いて携帯を耳から離そうとして、『和音』と、呼び止める声が聞こえた。

「うん?」

『貴方も頑張り過ぎないようにね。……辛くなったら、いつでも電話して』

「……」


優しくなった母の声に、ずっとずっと昔の記憶が蘇る。