『そんなことはいいのよ。大変だったでしょう。花音はもう寝た?』

「随分泣いたからね。疲れたんだろう。拓斗に一緒に寝てもらったよ」

『そう……』

ほう、と母の溜息が聞こえた。

『すぐに帰ってあげたいところだけど……やっぱりスケジュールが空かなくて。予定通り、来週末になるから』

「うん、分かってる」

『明日の朝、花音に話そうと思うけど、お母さんから学校へは連絡しておいたから。もし花音が嫌がるようだったら休ませてもいいわ。もうすぐ夏休みだし』

「教室へは?」

『そちらも同じように。辞めることも検討するわね。おうちに別の先生に来ていただいてもいいし』

「その方がいいかもしれないね」

『貴方たちと一緒の方が安心だというなら、貴方たちも辞めて、同じ先生に教えてもらえるよう、手配するから』

「分かった。拓斗と相談するよ」

『お願いね。それから、コンクールだけど……』

「……無理だと思うよ」

コンクール二次予選まであと二週間。

花音もエントリーしていたけれど……。

ヴァイオリンは直る。新しい弦も二週間あれば馴染むだろう。けれど、花音は……。傷ついた人の心は、そうすぐには治らない。