午後11時。
誰もいないリビングで、テーブルに置いた花音のヴァイオリンをぼんやりと眺めていた。
切られた弦を張り直してあげようと思ったのだけれど──四本全部切られた上に、駒も魂柱も倒れてしまっていて、僕の手には負えなかった。
乱暴な扱いをされた、かわいそうな花音のヴァイオリン。
それを花音は、どんな想いで見ていたのか。
なんともやるせない気分になりながらソファに寄りかかり……そこに、携帯の着信音が響いた。
それを、長く息を吐き出してから手に取る。
「はい……」
『和音? 遅くなってごめんなさいね』
機械を通して聞こえてくるのは母の声。
僕はまた息をゆっくりと吐き出した。
「ごめんね、大事な演奏会前に」
母はツアー真っ最中。父も国がらみの大役を仰せつかっているところ。こんなときに、負担をかけるようなことは言いたくなかったけれど……。
僕はこの家の長男として、弟と妹を護る義務がある。
けれど、こんな状態になった妹を僕だけの力で救ってあげることなど出来るはずもなく。
迷惑をかけることを承知で両親に連絡を取ることが、今僕に出来る最善の方法だった。
誰もいないリビングで、テーブルに置いた花音のヴァイオリンをぼんやりと眺めていた。
切られた弦を張り直してあげようと思ったのだけれど──四本全部切られた上に、駒も魂柱も倒れてしまっていて、僕の手には負えなかった。
乱暴な扱いをされた、かわいそうな花音のヴァイオリン。
それを花音は、どんな想いで見ていたのか。
なんともやるせない気分になりながらソファに寄りかかり……そこに、携帯の着信音が響いた。
それを、長く息を吐き出してから手に取る。
「はい……」
『和音? 遅くなってごめんなさいね』
機械を通して聞こえてくるのは母の声。
僕はまた息をゆっくりと吐き出した。
「ごめんね、大事な演奏会前に」
母はツアー真っ最中。父も国がらみの大役を仰せつかっているところ。こんなときに、負担をかけるようなことは言いたくなかったけれど……。
僕はこの家の長男として、弟と妹を護る義務がある。
けれど、こんな状態になった妹を僕だけの力で救ってあげることなど出来るはずもなく。
迷惑をかけることを承知で両親に連絡を取ることが、今僕に出来る最善の方法だった。


