離れ際に見せる哀しげな立ち姿。

妙に心に引っかかっていたけれど、もしかしたら、そういうことなのか。

「……少し、注意して見ていてくれないか」

「うん、出来るだけ傍にいるよ」

そうは言っても、僕も拓斗も中等部で、小等部の校舎とは完全に切り離された場所にいる。

ずっと見守っているというわけにもいかないが……。




僕たちはもっと早く、気づくべきだったんだ。

花音が学校でどういう状況に立たされていたのかということと、彼女が出す『サイン』。

そして、僕たちが思っている以上に、辛抱強い人間だったということに。




次の週の土曜日。

少し元気のない様子で音楽教室に出かけていった花音は、30分もしないうちに帰ってきた。

たまたま出迎えたメイドが、悲鳴を上げながら僕と拓斗を呼びにきた。

慌てて見に行ってみれば、楽譜の入ったバッグも、ヴァイオリンケースも、そして花音も。全身びしょ濡れになっていた。

外は快晴。

まったく濡れる要素がない。