響也は夕方まで家にいて、リビングで一生懸命ヴァイオリンを弾いていた。

しかし、聴かせているはずの花音は、ダイニング側から顔半分を出してこちらを見ているだけで、最後まで近づいてこなかった。

「なあ~花音ちゃん、おいでよぉ~」

普段の口調とはまったく違う、猫なで声でそう言うも、花音はじいーっと響也を睨みつけるだけだった。

そこへ、拓斗が帰ってくる。

玄関から聞こえてきた兄の声に、花音は響也を素通りして飛んでいった。

「うう、撃、沈……」

響也はがくりと肩を落とした。

「ご愁傷様」

……おかしいな。

人見知りとはいえ、上手い人の演奏はちゃんと聴く子なのに。

響也の音は、花音も気に入ると思ったのだけれど……。



落ち込んだ様子で帰っていく響也を玄関先から見送ると。

「兄さあぁあぁあぁあ──ん!!」

拓斗が珍しく怒鳴りながら廊下を走ってきた。

「花音に変なこと吹き込まないでよおおおっ!」

真っ赤な顔でそう言ってくる拓斗に、今朝の出来事を思い出す。

そう言えば、『同士』を作っておいたのだった。