「へえ……なるほど、君の音が自由な訳が分かった。もしかして、将来はそっちへ?」

響也のヴァイオリンは決して下手ではない。

ただ、譜面通りに弾かないから、正確性を求められるコンクール向きではないというだけで。

弾むように奏でられる音は、人々を楽しませるエンターテイメント性を持っていると感じていた。

「今んとこ、夢見てるだけだけどなぁ。でも、もう少し上手くなったら客の前で弾かせてやるって言われてんだよ。メインメンバーの前座だけどさ。ちょっとずつ、な。進みてぇじゃん?」

目を輝かせる響也に、頷いて同意する。

「まあ、何をするにも、あの頑固親父に認めてもらわねぇとなんだよ」

がしがしと色素の薄い髪を掻き毟り、そうして顔を上げる。

「てめぇの夢を子どもに押し付けんな。俺は、俺の道を行くんだって。分からせてやるんだ」

ふっ、と。

遠くを見つめ、真剣な眼差しでそう言う響也が、急に大人びて見えた。

「……認めてもらえるといいね」

「ああ。ま、そのためにもコンクールもちょっと頑張んねぇと」

「それでエントリーしたのかい」

「おうよ!」

拳を握り締め、響也は頷いた。