「メンデルスゾーン? ああ、好きそうだよな、静かで、華やかでかわいくて」

響也は笑顔で頷く。

「そんで懐いてもらって、お兄ちゃん~とか呼ばれてみてぇよなあ。そんでゆくゆくは、小鹿ビームを俺のものに……」

「……」

「おっ、さすがお兄ちゃん、『ウチの妹に手ぇ出したら殺すぞ』って顔してんなぁ!」

「……」

「……オイ、無言でにこやかに笑うなよ。冗談がマジになんだろ」

「……」

「何、マジで殺す気? や、お前普段穏やかな分、怖さが未知数すぎて恐ろしいんだけど。……や、待てって、冗談だから、嘘だから、そんなことしねぇから。つか、小学生に手ぇ出したら犯罪だろ? いくらなんでも在り得ねぇから。……なあ、怖ぇから無視すんなよ、オイイイイー!」

「ところで、どうして君がバーの鍵を預かっているんだい? よほど信頼関係になければ、そんなことはしないと思うのだけど」

「お前人の話を聞けよおおー!」

勝手に妄想して勝手に怖くなっている響也を無視して、疑問を投げかける。

しばらくブツブツと文句を言っていた響也は、不機嫌そうに唇を尖らせながらも説明してくれた。

「実はさー、俺、マスターのやってるジャズバンドに入れてもらったんだ。そんで練習させてもらってんの。これはメンバー全員がもってるヤツ」

と、シルバーのタグがついた小さな鍵を見せてくれた。