それから『fermata』でマスターにお昼ご飯をご馳走になり、花音が寂しがっているだろうからと、早々に家に帰ることにした。

帰る方向が一緒の響也と、また2人でぶらぶらと歩きながら話す。

「しっかし、お前も過保護だねぇ。妹ちゃんのためにお友達を振って帰っちゃうとは」

日曜の昼下がり。

確かに、普通ならばまだまだ遊んでいられる時間だ。

「親がほとんど家にいないからね」

「ああ……そっか。いれば大変だけど、いなきゃいないで、大変だな……」

断片的にしか話は聞いていないけれど、響也は父親との確執があるようだから、それで大変なのだろう。

親に振り回されている、とは思っていないけれど、響也と話が合うのは、そういう部分もあるからなのかもしれない。

「なあ、それなら俺、これからお前んちに押しかけちゃおうかなぁ~。妹ちゃんの相手してやるからさぁ。嫌われたままじゃ哀しいしよぉ」

「ああ……」

でも、今日また顔を見せたら、一目散に逃げていきそうな気がする。

いや、逃げていく。

その光景が容易に想像できる。

「もし来るなら、遠くからヴァイオリンを弾いてやるといい。そうだな、『春の歌』あたりが良いかな」

かわいい妹を怯えさせるのも、友人を哀しませるのも心が痛むので、そう提案してみる。