スポットライトのように淡く照らされた部屋の奥に、艶やかに光るグランドピアノ、ドラムセット、そして壁にはコントラバスが立てかけてある。

「ここは……」

周りの暗さに目が慣れてきて、部屋の全体像が見えてきた。

ステージの前にはソファ席がいくつか、そして僕の横には高いカウンターと丸い椅子。

カウンターの向こうには、壁一面にワインやら焼酎らやのビンがびっしりと並んでいた。

「ジャズバー?」

「正解っ!」

僕の前に立っていた響也が、笑顔で振り返る。

「あれ……でも君、自分の家も同然って言っていなかったかい?」

響也の父親は確か、外資系商社の重役。

ジャズバーを経営しているとは聞いていなかったが。

「まあ、俺も色々あってよぉ」

響也はカウンター前の席に座り、ぐるぐると回りながら語りだした。

「簡単に言やぁ、親父と大喧嘩して家飛び出してさすらってたら、不良に絡まれてボッコボコにされて、野垂れ死にしそうだったところをここのマスターに助けられて、そしてそのまま居ついた、というわけだ」

「……なるほど。分かりやすい説明をありがとう」

ということは、あの噂も満更嘘ではないということなのか……。

火のないところに煙は立たないとは、良く言ったものだ。