──なんだろう。

人一倍甘えん坊で寂しがり屋の妹が、離れ際に哀しそうな顔をするのはいつものことなのだけれど……。

なんだか、ぽつんと佇む姿が頭から離れない。



響也に連れられて行ったのは、賑やかな駅前通りから外れ、狭い路地裏に入った先。

スナックや居酒屋といった、昼間は営業していない店舗の合間にある、古ぼけた煉瓦造りのビルだった。

「こっちー」

響也はビルの階段を地下へ下りていく。

入り口の壁に取り付けられている電光掲示板の案内を見れば、地下一階は『fermata』とある。

フェルマータ……音符や休符に『伸ばす』意味を付加するときにつける記号のことだろうか。

とすると、音楽スタジオか何かか。


軽快な足取りで階段を下りていった響也に続いて地下のドアを潜り抜けると。

目の前に、小さなステージが広がっていた。