もうこれ以上はくっつけませんよ、というくらい僕にがっちり抱きつく花音に、なんだかショックを受けているらしい響也。

「あれ……俺、嫌われた? なんで? まさか、カッコ良すぎるから!?」

「大抵の人にはこうだから気にしないでくれ」

「いや、ここはスルーしないでなんか突っ込めよ」

「とりあえず外で待っていてくれるかい」

「無視すんなコラ」

目付きを鋭くする響也をドアの向こうへ追い出して、花音の頭を撫でて落ち着かせる。

「花音、僕は用事が出来てしまったから、ちょっと出かけてくるよ」

「行っちゃうのぉ……?」

置いてきぼりを食らう子どもみたいに、不安そうな、泣きそうな顔でそう言うから、申し訳ない気持ちになるのだけれど。

「なるべく早く帰ってくるよ。お昼ご飯は、かなえさんたちと一緒に、ね」

「……うん」

しょんぼりとした顔をして、それでも小さく頷く。

我侭なところもあるけれど、基本は聞き分けの良い、素直な子だ。

この日もちゃんと分かってくれたのだと、僕は花音に軽く手を振ってドアを開けた。

「じゃあ、行ってきます」

「うん。行ってらっしゃい、お兄ちゃん……」



ドアを閉める瞬間に見えた、俯き加減に立つ花音が。

やけに、哀しそうだった。