「何笑ってんだテメェ」

髪を掴まれてそのまま引き摺られそうになって、顔を顰めたところにパトカーのサイレンが響いてきた。

通りにいた誰かが呼んでくれたのだろうか……。

「ヤベ」

「行くぞ!」

暴れていた男性たちは、サイレンの音に蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

開放された僕は、硝子の突き刺さった左手を眺め、唇を噛み締めた。

そこへ。

「オイお前、大丈夫かっ……て、うわっ、和音かよ!」

聞き慣れた友人の声が響いた。

「喧嘩だっつーから駆けつけてみれば……お前こんなとこで何やって……」

僕の身体を起こそうと屈んだ響也は、左手に突き刺さる硝子を見て顔を強張らせた。

「おま、これ!」

がっと手首を掴み、流れる血に青ざめた響也は路地に向かって叫んだ。

「マスター! マスター、救急車あああっ!」

「け、怪我人が、出たかいっ?」

息を切らしながら走ってきたマスターは、響也の影でボロボロになっている僕に気づき、同じように顔を険しくした。