「……あ!?」


思わず呻いた僕。

脳裏に過ぎったのは、


『ヴァイオリンが弾けなくなる』


……だった。



もう弾かなくてもいい。

そこまで思っていたはずの僕が。

硝子の突き刺さった左手を見て、真っ先に浮かんだ言葉が『ヴァイオリンが弾けなくなる』だなんて。

そんなことで現実に引き戻されるなんて。


「は……はは……」

乾いた笑いが漏れる。

どんなに殴られても構いはしないのに。

手だけは別だと? 奪われたくはないと?


なんて僕は、貪欲な生き物なんだ……。