「……そう、だけど、でも」

僕は更に首を横に振る。

「駄目なんだ」

「和音……」

項垂れる僕を、母はしばらくの間見つめていた。そうして僕の肩に手を置く。

「……少し休みましょう?」

僕の顔を覗き込みながら、母は優しい声で言う。

「今はヴァイオリンのことは考えなくていいわ。高校のことは……そうね、学校の先生に相談してみるから。受験生では気分転換もままならないでしょうけど……しばらくは勉強に打ち込んで。ね? 春になったらまたみんなで外に出かけましょうか。受験が終われば少しは落ち着くでしょう」

「……」

そんな先のことは考えられない。

……考えたくなかった。

それでも平気な顔で頷いておけば良かったんだ。

僕にはそれが出来るはずだ。

でも、しなかった。

相手が母だったから……甘えていたのかもしれない。