どうやっても弾く気になれない。

レディ・ブラントを手にすると、そこに詰まっている思い出が津波のように押し寄せてきて、その温かさに耐え切れなくなるんだ。


……赦されないと、思うんだ。


「分かったわ」

母は静かに頷いた。

「受験は来年でなくてもいいわ。こちらの高校に進学した後、それからまた考えましょう」

「僕はもう、弾かないよ」

「いいえ。今はただ、気持ちが落ち着かないからそう思ってしまうだけよ。時間が経てば考えも変わる。それまで答えを出すのは待ちなさい」

母の言葉に、僕は激しく首を振った。

「今弾けなかったらもう弾ける気がしない。もういいんだ。別の道を探すから」

「待って和音、落ち着いて……。貴方はまだ15歳なの。まだまだ可能性が眠っているのよ。今は弾けなくても……ええ、そうね、何年か弾かなくてもいいわ。貴方に休養が必要なことは母さんにも分かるから。高校は音楽に積極的でないところでも構わないし。そこに行って新しい環境に触れれば、きっとまた弾きたくなるから……だって貴方、ヴァオイリンが好きでしょう? だから今までやってきたのでしょう?」