ふと、泣き声が聞こえてきた。

すすり泣く声はあちらこちらから聞こえていたけれども、随分と激しい、怒声にも似た女性の声が聞こえてきた。

「馬鹿水琴っ……なんでよおっ……なんでアンタが死ぬのよおっ! こんなのってないよ! あの子が何したっていうのよ!」

ベリーショートの髪の背の高い女性が、ふわふわした茶髪の男性にしがみ付いて泣いていた。

「……アキさん」

水琴さんの親友で、チェリストのアキさん。

豪快に笑う彼女が、別人のように頼りなく泣きじゃくっている。

人目も憚らず、親友に訪れた悲劇に怒り、哀しみ、叫んでいる。

僕はそれを、ただ遠くから眺めていた。

「っふぅー……せんせぇー、どぉしてぇ……一緒にお買い物行く、って、約束、した……の、にぃー……」

僕の腕にしがみ付きながら泣き咽ぶ花音のことも、僕は遠くから眺めていた。

「水琴先生……」

花音の頭を撫でながらも、涙の止まらない拓斗のことも、僕は遠くから眺めていた。


すべてのことが、遠い。