「あの……花音? それはどこで覚えたのかな?」

「ん? この間観た、映画ー……」

「ああ……あのね、それは兄弟に言うには適切ではないね」

「そうなの?」

「まあ、間違いではないんだけれど……出来るなら『Je t'aime』ではなく、『Je t'adore』……が、いいかな」

「じゅ、たどぅー?」

「そう」

「ふうん。わかったぁ」

素直に頷いた花音に、密やかにため息をつく。

まさか妹に『愛してる』と言われて、自分が照れるとは思わなかった。

僕もまだまだ青臭い子どもだということなのか……。

認めるのは癪だが、いい勉強になった。もし次があったら即座に切り返せるよう、精神を鍛えねばならないな。

しかしこれで終わらせるのはなんだか悔しい。

「花音。拓斗が帰ってきたら、さっきと同じことを言ってあげるといいよ」

「拓ちゃんに? 拓ちゃんもお兄ちゃんだけど、いいの……?」

「いいよ。どんな反応するか、楽しみだね」

「ふうん? わかったぁ。楽しみだねぇ」

にこりと微笑む花音。

ふふ、本当に──楽しみだね。