しかし、申し訳なく思う間もなく、水琴さんは顔を上げた。

「でもね、好きになれたわ」

しっかりと僕を見つめるその顔には、穏やかな笑みが浮かんでいる。

「私の中で泣いていたショパンを、貴方が優しい笑顔に変えてくれた。……ありがとう」

ふわりと広がる花のような笑顔に、僕の胸にもじわりとあたたかなものが広がっていく。

でも。

「……僕は、なにも」

貴女にしてあげられなかった。

あたたかくなる胸の中に、同時に広がる苦くて痛い想い。

──どうして。

どうして、僕は何も出来ない『子ども』なのだろう。

もしも願いが叶うなら、今すぐに時間を飛び越えて大人になりたい。

そうでなければ、せめて。

貴女を取り巻く様々な問題も、貴女自身も。

……僕が大人になるまで、待っていて欲しかった。


そんな、どうしようもないことを今更ながらに考える。

けれど、水琴さんが微笑んだから。

優しく微笑んでくれていたから。

僕も笑える。

きっと……笑えている。