雨の降る夕方の空は、もう夜になったのかというほどに暗い。

リビングのシャンデリアには明かりが灯されたけれど、沈黙の落ちる部屋の中は、なんとなく重い。

窓際に、少しの間を空けて、外の景色を見ながら立つ僕たち。

時計の音と、雨の音。

規則正しく鳴る音たちの中に、たん、たん、たん……と、雨だれの音が加わる。

暗闇の中にも、どこか優しさを持って響いてくる旋律。

「……ショパン、ね」

ふふ、と水琴さんが微かに笑った。

俯き加減になった彼女の白い頬に、薄い色の髪がさらりと落ちる。

「そうですね」

まるであの日の教会のようだと、僕は頷いた。

柔らかい髪の隙間から見えた、ぱたりと落ちる透明な涙の粒が、今も眼裏に強く焼きついて離れない。

「私ね、ショパンはあまり好きではなかったのよ。……ちょっと、色々あって……しばらく聴きたくもないと思っていたの」

あの教会での涙は、僕が不用意に放ったショパンというキーワードのせいだったのか、と。

一年も経った今、知らされる。