「せんせー、あのね……」

いつものように水琴さんに語り掛けようとした花音の腕を、拓斗がつつく。

「花音、しっかり」

「あ、うんっ」

花音はしゃきっと背筋を伸ばす。

「今日は先生のためにミニ演奏会をしますっ。どうぞ、最後までお楽しみくださいっ」

まるで学芸会の発表のように、花音にしてみれば大きな声で喋り、ぺこりとお辞儀をする。

良く出来ました、と微笑みかけると、花音は嬉しそうに破顔した。


「演奏会?」

ブーケを抱いたままの水琴さんの顔にも笑みが浮かぶ。

「リクエストがあれば受けますが、まずは、僕たちからのお祝いの曲を」

水琴さんにそう言ってから東屋を出て、木陰にセッティングした椅子に置いておいた楽器を手にする。

花音がヴァイオリン、拓斗がヴィオラ、そして僕がチェロだ。

コホン、と拓斗がひとつ咳払いをする。

「ええと、それでは、エルガーの『愛の挨拶』をお聴きください」