パラリ、とページをめくっていると、後ろからぎゅっと抱きつかれた。

ソファ越しに腕を絡めてくるような人物はこの家ではひとりだけで、僕は本に目を落としながら片腕を持ち上げ、後ろにある頭を撫でてやった。

ヘッドフォンから聴こえるフランス語に、花音の「えへへぇ」と笑うかわいらしい声が混じる。

しばらくそのままでいたのだが。

僕の意識が花音から本の中身へと移る頃に、するりと腕が離れていった。

不思議に思う間もなく、ソファの左側が沈み込む。

視線をやれば、隣に座った花音が僕を見上げてにこにこと微笑んでいた。

それに微笑み返し、また本に視線をやる。

しばらくして、今後は膝の上にもそもそと移動してくる花音。

本から視線を外すと、花音はまたにこぉっと笑い、僕の胸にすりすりと頬を摺り寄せた。


──これはもう、読書は無理だ。

僕は諦めてヘッドフォンを外し、本をテーブルの上に戻した。

「花音は暇なのかな」

「うん」

「友達と約束は?」

「今日はお兄ちゃんといるのー」

そう言って、先週もその前の週も僕にべったりしていたような。