それらをオーブンに入れてから、リビングに行きソファに座る。

焼きあがるまでの間、ヘッドフォンから聞こえてくるフランス語会話を聞きながら読書でも──と、テーブルに置いていた本を手に取る。

『La Porte étroite』とフランス語で題されたその中身も、フランス語原文のままだ。

日本語訳で『狭き門』──ノーベル文学賞受賞者、アンドレ・ジッド作の小説。

元は、善良で真実の門を通る事の勧めであり、それから外れた邪道に行く事は滅びの道に入る事だと諭す、イエス・キリストの言葉に由来する内容なのだが。

現代では、『狭き門』とは競争が激しく、突破することが非常に困難な場所、という解釈がなされている。

誰よりも努力を重ねたつもりでも、天に繋がる門を潜れるのはごく僅かの人間だけ。

それも、清き心のまま突き進んできた者だけに通ることを許される、狭き門。

真摯に音楽と向き合う弟に対し、醜い嫉妬を抱く僕には、身につまされる話だ……。