「分かっていると思うけど、紹介はするけれどコネなんか通用しないからね。ちゃんと勉強しておくのよ。水琴ちゃんにも言ってあるけど……」

「……うん」

その名前を聞いて、更に緊張する。

クリスマス以来、水琴さんには会っていない。

年明け最初のレッスンは、学校が始まる直前になる。それが人生最大の失態を晒した後、初めて水琴さんと会う日となるのだけれど。

……どんな顔をして会えば良いのか。

自然と頭を抱える僕は、深い溜息を繰り返す。

「……珍しいわね、貴方がそんなに緊張するなんて。大丈夫よ、怖い人じゃないわよ? どちらかと言えばお父さんみたいな変人よ? きっとすぐ馴染むわ」

母は僕がマルセル・ブランに会うことに緊張していると思い──それだけでも十分に緊張することだが──そう言ってくる。

「父さんみたいな変人って……」

夫もヴァイオリンの師匠も変人だなんて、と少しだけ笑みが漏れたけれど。

そのすぐ後には、やはり溜息。


マルセル・ブラン。

斎賀水琴。

この2つの緊張の元を、早くどうにかしたい。