クリスマスの後、僕は弟妹や両親とともにパリへ旅行に出た。

両親の長期休暇が取れるこの時期は、毎年家族旅行に行っているわけなのだが、今年は僕の留学先を見学しておこうということでパリになった。


日が短いおかげで、長い間煌めくイルミネーションを楽しむことが出来るシャンゼリゼ通り。

そこから少し裏に入ったところにあるホテルの一室で、花音と拓斗は煌めく星の川のような窓の外の景色をはしゃぎながら眺めている。

その後ろから父が2人を抱きしめ、嬉しそうに話しかけている。

それを横目に僕はソファに座り、母と明日の打ち合わせだ。

明日は母が師事していたという先生を紹介してもらうことになっている。

恐らく、入学出来れば僕も師事することになる、ヴァイオリン界の巨匠マルセル・ブラン。

「先生と会うのも久しぶりだわ。きちんと挨拶するのよ。それほど気難しい方ではないけれど」

「分かっているよ」

と、息を吐き出す。

明日のことなのにすでに身体がガチガチだ。試験を受けることよりもマルセル・ブランに会うことの方が緊張する。それだけの偉人だ。

『橘律花』を初めとする有名なヴァイオリニストを多数弟子に持つ、自身も天才と言われたヴァイオリニストなのだから。