「……だから出来ないことは出来ないと言ってしまった方が楽なのに」
水琴さんのヴァイオリンケースを持ち、玄関まで送りながらそう声をかけると。
「いいえ、嘘を本当にするまで隠し通すわ。あの子たちの前では綺麗で優しいお姉さんでいないと」
頑固にもそう言い張るので、僕はまた仕方ないな、と苦笑した。
そうして玄関でヴァイオリンケースを渡したところで、水琴さんは何か思い出したように僕を見た。
「そうだ和音くん。クリスマスは何か予定ある?」
「クリスマス、ですか。25日?」
「ええ」
「25日は何も予定はありませんよ」
響也やマスターたちとは23日にパーティをやる約束をしているし、家族とは両親の帰ってくる24日の予定だ。
25日は丸々空いているけれど……。
「実は今日は予定が入ってしまっていて。料理教室を水曜に……クリスマスに、変更出来ないかと思って」
「ええ、構いませんが。……クリスマスなんて、恋人は良いんですか?」
探りを入れるための質問だったのだが、言ってからふと気づく。
学生ならともかく、大人の……大抵の社会人にとって水曜日とは平日であり、仕事があるのだ。
冬休みに入っている僕たち学生なら平日の日中から時間を取れるけれど、大人はそうでない。
……まさか恋人と過ごすための料理を教えて欲しいなどと言われるのではないだろうか。
そんな危惧をしていると、水琴さんは苦笑した。


