「いえ、そんな。先生お忙しいのに、花音が我侭を言ってすみませんでした」

ぺこり、と頭を下げるのは拓斗。

「そんな、大丈夫よ! お菓子作りは大好きだもの」

拓斗を心配させまいと、またそんなことを言ってしまう水琴さんにチラリと目をやると。

彼女も僕を見て、軽く両手を合わせた。

仕方ないな、と溜息混じりに微笑むと、水琴さんも軽く肩を竦めながら微笑んで。

その一連の流れを向かいのソファから見ていた拓斗は、僕と水琴さんを見比べて俯き加減に微笑んだ。

また何か勘違いをしているのだろうけれど。

特に否定はしないでおく。


「水琴せんせーのクッキーおいしかったから、私も焼いてみたんだぁ。お礼に、どーぞっ」

「花音ちゃんが焼いたの? 凄いわ……」

心底感動したような顔で花音のクッキーをつまみ、口に運んで「おいしいっ」と微笑む水琴さん。

それを見て花音もほわっと微笑む。

「良かったぁ。お兄ちゃんに教えてもらったんですよぉ。お兄ちゃんは何でも出来るからっ」

「そ、そうなの。お料理も出来るなんて和音くんは凄いのね……」

「それほどでもありませんよ」

笑いを堪えながら、紅茶の注がれたカップを口につける。

何の茶番だろうと思いながら。