あの教会で鳴り響いたときの人々の笑顔を思い出しながら、僕が奏でたい鐘の音を、誰かに聴いてもらうために奏でる。

そうして誰かの笑顔を見る。

僕もそれを見て、笑顔になる……。



弾き終わった僕は、拓斗や花音だけでなく、レッスン室である客間に集まった執事たち、橘の家人たち、多くの人に拍手されていた。

その中心にいる水琴さんも、今までで一番明るい笑顔で拍手をしてくれていた。

「どう? 鐘の音は聴こえた?」

その問いに僕は、自信を持って答えた。

「はい!」


必ず本選までには、貴方の望むような演奏をさせてあげる。

その言葉通りに鐘を鳴らせてくれた水琴さんを、僕は心の底から尊敬することになった。


その後は一日5時間という練習時間をもらい、そうして夏休み終わりにコンクール本選を迎える。


結果はやらなくても解る──なんて言ったら、生意気だろうか。