何かが見えそうだった。

僕に足りない、何かが。

「水琴さん……」

見え始めた出口に駆け出そうとする僕は、水琴さんにそのことを伝えようとして名前を呼んだのだけれど。

その僕の声に被さるように、別の声が聞こえてきた。

「水琴?」

遠くから微かに聞こえた、男性の声。

声の主を見やれば、それは黒いタキシードを着た新郎だった。

いつの間にか観光客の人垣がいなくなり、結婚式を挙げている人たちとは距離があれど、お互いの姿がはっきり見えるようになっていた。

離れているから良くは分からないが、新郎は水琴さんより少しだけ年上に見える。

もしかして知り合いだったのだろうか。それでは……水琴さんはこの式に出席しなければならなかったのでは?

そう思い、隣の彼女を見て──はっとした。

水琴さんは、今まで見たことのない、哀しげな笑みを浮かべていた。

どくりと、心臓が揺れる。

見てはならないものを見てしまった。

咄嗟にそう思い、彼女から視線を逸らす。

儚げながら、ふわりと穏やかに笑うはずの水琴さんが、一瞬にして別人に見えた。