どんな鐘を鳴らしたい?

真っ白な雲がいくつも浮かぶ真夏の蒼穹の下、暑さをも吹き飛ばす笑顔と、おめでとうの声。そしてそれを包み込むように鳴り響く鐘の音を聞きながら考える。


感銘を受けたのはギトリスの荒々しくも荘厳な鐘の音。

けれどその真似をしたいわけじゃない。

僕が鳴らしたいのは……そう、丁度、今幸せな2人と参列者たちを包み込んでいるような神聖な音。

高らかに、清らかに響く祝福の音。


「じゃあその鐘の音は、どんな人に聴かせたいの?」

ライスシャワーを浴びた花嫁たちは、観光客に取り囲まれ、次々に祝福の言葉をかけられている。

それから階段の下で友人たちと一緒に写真撮影を始めた。

「鐘が鳴っても、誰にも届かないのでは意味がないわ。貴方が届けたいと願わなければ、誰にも聞こえないの」

そう言う水琴さんの真剣な眼差しと視線を交差させ、また幸せな2人に目をやった。


鐘を鳴らすことにだけ集中していた僕は、誰かに届けようとは思わなかった。

僕のヴァイオリンから鐘の音が響かなかったのは、そういうことなのだろうか。


教会の鐘は、幸せな2人のために鳴る。

これからの未来に幸あれと。


たぶん僕の目指す鐘も。

そんな『幸せ』への道しるべ。