やがて、いつものふわりとした柔らかい笑みを取り戻した水琴さんは、僕たち3人の顔を見渡してこう言った。

「じゃあ、初めての体験というわけね。そっか。それなら電車にして良かったわ。いつもとは違う景色が見れるかもしれないもの」

……それは確かに、そうかもしれないけれど。

電車の乗り方も知識でしか知らない僕たちは、戸惑うことばかりで。

券売機で戸惑い、自動改札口で引っかかり。小さい花音は人波に浚われそうになり、「お兄ちゃんたすけてええええ~!」と泣き声をあげる。

「なんだか先生、本当に先生になった気分になってきたわ」

まるで小さな子どもの僕たちを見て、水琴さんは俄然やる気になったみたいだ。

皆さんこちらですよ、と。

バスガイドよろしく、片手を挙げて僕たちを案内をしてくれた。

僕たちはそんな水琴さんの後をついて駅構内を歩き、ホームで電車を待つ。

「電車が停まってる」

拓斗は反対側のホームで停車している銀色の電車を見て、目を輝かせ。

「人がいっぱいだねぇ……」

夏休みのせいか人が多い──もしかしたら平日もこうなのかもしれないけれど──ホームを見渡し、人見知りの花音は僕の後ろに隠れ気味。

「ほら、電車が来たわ。あれに乗って行くのよ」

挙動不審気味な僕たちを見て、水琴さんは笑いを堪えながらもそう教えてくれる。