僕たちは電車に乗るのが初めてだ。

今まで街中の移動は徒歩か車だった。

僕たちの学校は遠方から通ってきている生徒もいるのだけれど、恐らく電車通学の生徒はひとりもいない。そのほとんどが車で登下校している。

僕たちは徒歩で30分以内の距離に学校があるので、運動も兼ねて歩いて通っているけれど。

……そういうわけで、水琴さんから『電車で行きましょうか』と言われたときには、電車とはなんだったか、と一瞬考えるほどの馴染みのない単語であり、未知の乗り物であった。



駅前で待ち合わせていた水琴さんと合流し、電車は初めてなんです、と言えば。

「ええ、電車に乗るのが初めて!? まあ……さすが橘家のご子息方ですこと……」

と、驚かれてしまった。

「じゃあ、もしかして、バスに乗るのも初めて?」

水琴さんの問いに、僕たちは揃って首を横に振った。

「バスはありますよ。学校の遠足や修学旅行で」

「そ、そうか、そうよね」

「でも市営バスにはありません」

「……そうなのね」

水琴さんはしばらく目を丸くして僕たちを見ていた。