隣にいる荻野くんにドキドキする。

 嬉しさと恥ずかしさ半分ずつ。


「はい、それではマイクに向かって名前からお願いします」

 北村先生は静かに録音スイッチを入れた。


「荻野です」

「佐山です」

 よしっ!!

 集中集中!!

 頭を切り換え、今テストの事だけを考える。

 先生のピアノ前奏が始まり、歌い始めはバスの荻野くんから。


 ~ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ~


 テストは無事終了。

 歌う前も歌い終わってからも彼と目を合わせる事はしなかった。

 そんなこと恥ずかしすぎて出来ない。

 一緒に歌っといて今更って感じもするけど……。

 初めて荻野くんが歌ってる所聴いたかも?
 
 しかも隣で聞けちゃった♪

 よく透る声してたなぁ

 なんでいつもは歌わないんだろ?

 素朴な疑問が浮かび上がるが、声を掛ける事なく真っ直ぐ入口に向かった。