先輩は続ける。


「そう、理由などないのだ。人によっては例外もあるが、自宅というのは心安らぐ場所だ。
帰ったら温かいご飯とお風呂が用意され、ふかふかのベッドで身の危険を感じることもなく安眠できる。テレビもゲームも漫画もある。無条件で自分のことを守ってくれる家族がいる。
当たり前になっていて気付かないが、これほど幸福なことなどなにもない。そう思わないか?」


「先輩……」


「私も最初は帰宅部に入るつもりなどなかった。だが部長と共に帰宅する内に、帰宅する意味を探している内に、我が家の……いや、家族の温かみと有難さに気付くことが出来た。
この気持ちを忘れないために私は帰宅部に所属している。それが理由だ」


これでいいかな?


最後の言葉に頷いて、食べかけのクッキーを口の中に放り込んだ。


想像以上に深い理由だった。


俺みたいに「カッコイイ先輩がいたから」とか「部活動に入ってないと推薦が」という理由だと勝手に思い込んでいた数分前の俺をぶん殴りたい。


家族の温かみ。有難さ。


その気持ちを忘れないよう、今でも帰宅部に所属している。