それに、俺のことを思って先輩は嫌な役を引き受けてくれている。
人に言えない秘密。他人を不快にさせる秘密。
でもこのまま黙っていたら、それこそ先輩の中でモヤモヤが積もるだけで、より不快な思いをさせることにもなりかねない。
先輩なら大丈夫。きっと受け止めてくれる。
人を見る目は、ある方なのだ。
「俺、父さんと母さんの三人暮らしだったんです」
過去を遡り、記憶の底から一つ一つ組み取って、言葉を丁寧に繋ぎ合わせる。
こういう語りは苦手だから上手く頭が回らないけど、少しでも先輩に伝わるように言葉を選んだ。
「でも母さんが病気で死んで。俺ん家、じいちゃんもばあちゃんも俺が生まれる前に亡くなってて、親戚らしい親戚もいなかったし、俺も自分のことで一杯一杯だったから、父さんのこと支えてあげることが出来なくて……」
積み重ねてきた積木が一瞬で崩れるように、父さんは投げ崩しに壊れて行った。
「変な宗教に嵌って、変な組織に入って、挙句の果てにリーダーになっちゃったりして。人を傷つけるようなことはしなかったけど……まあ、色々としちゃったわけですよ」



