「じゃあ、俺用事あるから」
「そうなの? 一緒に帰ろうと思ったんだけど……」
「あっ、そうなんだ。ごめんね」
「ううん。じゃ、ばいばい」
そんなような会話が聞こえたような気がする。
千鶴が隠れている靴箱のすぐ裏にいるというのに、会話はほとんど耳に入ってこない。
さっきの出来事が何度も頭の中で再生される。
まるでずっと一緒にいたような間合い。
……いや、“まるで”なんかじゃないかもしれない。
本当にずっと一緒にいたのかもしれない。
考えたくなくても思考は結局そこに行きついてしまう。
それ以上進むことも戻ることもなく。
なぜこんなに野々宮のことが気になるのか。
野々宮と仲の良い女の人を見てこんなに不快な気分になるのか。
今までずっと気づかないふりをしてきた。
そんな気持ちは無いと自分の心の中で無意識に言い聞かせていたのかもしれない。
しかしそうしていられる時間は過ぎてしまった。
もう自分の気持ちに鈍感な振りをし続けるのには限界が来ていた。

