「おまたせ」

日吉の背中に声をかけると、日吉はゆっくりと振り向きながら不機嫌に言う。

「10分遅刻なんだけど」

「ごめん」

「まあ、良いけど。金、持って来た?」

「ええ」

――嘘だ。はなっから払うつもりはなかった。

「早く渡して!」

不機嫌に眉間にシワを寄せて、日吉は「くれ!」と掌を出した。

「その前に、聞きたいコトがあるの」

「なによ?」

そう聞きながら日吉はあからさまに「早くしてよ!」と睨んだ。

「あなた、私が高村を殺すように――仕向けたでしょ?」

「はあ!?」

「とぼけないで」

私が強い口調で言うと、日吉はむっとしたように黙った。

「だったらなんでコンビに行くなんて嘘ついたの? どうして私に高村と会うのって聞いたの? 私は高村の言っていた脅迫文なんて出してないわ。出したのはあなたでしょう? そして出したのは私だって高村に吹き込んだ! 違う!?」

そう問いただした私に向かって、日吉は一言つまらなそうに呟いた。

「で? それがなに」

「え?」

――なにって!
私が驚きを通り越して、怒りを覚えていると、日吉は不敵に微笑んだ。

「撮ったのは本当なんだし、問題ないんじゃない?」

「問題って……大有りよ!!」

思わず叫ぶ。

「あなたがあんなこと言わなければ――私はあんな事しなかったわ!!」
想いに任せて怒声を上げると、日吉は表情を一変させた。

「はあ!? ふざけんじゃないわよ!」と叫んで、私を責め立てた。

「あたしが言わなかったら、あんたはやんなかったって!? そんな確証はどこにあんのよ! あんた、あたしが声かける前すっごい顔してたの、知ってた? 張り詰めちゃって、青い顔で、いかにも「あたし追い詰められてます」って顔してさ、〝窮鼠猫を噛む〟って手前のツラしてた!!」

そこまで息巻くと、感情の高ぶりを抑えるように、深く息を吸う。そして、
バカにしたように笑って続けた。

「あたしはぁ、自分の意見を言っただけでしょ? それを「そうだ」と思うか「違う」と思うかはあんたしだいでしょ――勝手に高村押したのはあんたでしょう! 違う!?」

――確かに、押したのは私だ。
でも、そうさせるように仕向けておいて……開き直るの?

(なんであんたにそんな事言われなくっちゃいけないの!?)

私は悔しくて言葉が出てこなかった。そんな私を、日吉は鼻で笑った。

「あんたさぁ、脅迫文出してないって言ったわよね? でも――覚えはあるでしょ?」

その言葉に、私はぎくりとする。

――まさか、こいつ……!