「私はそれから家に帰ると、ジャージに着替えて夜中まで一心不乱に走ったわ。何かを振り切りたかったのかも知れないし、逃げたかっただけかも知れない。――あれから、私の身体には黒い虫がウヨウヨと巻き付いてる。――貴方達には解らないことね」
「でもね」榎木はそう言って、悲しそうに続けた。

〝血迷った事はなさらないで下さいね〟

「この時、完璧に抜け落ちていたこの三枝さんの言葉を、思い出していれば良かったと、今になって後悔しているわ」

榎木はそう自嘲した。そんな榎木を三枝は奥歯を噛み締めて見つめた。

「だって、思い出していれば、日吉の罠に引っかかる事はなかったんですもの」

「罠?」

要がそう呟くように聞くと「ええ」と頷いた。

「高村は事故死と断定され、やっと、私は少しだけ安心したの。だけどそれは、ほんの一瞬で終わった。あなた達は変なクラブを作り、高村の事について調べ出し、そして日吉は……私を脅した」