それは、最後の文の横に、目立たないように書かれていたアルファベットだった。

――y。 
――k・s・k・r・k・d。

「それがなに?」

榎木は怪訝そうに顔をしかめながら、迷惑そうに言った。
すると要は、真剣な表情でこう、きりかえす。

「この紙は、間違いなく呉野先輩からのメッセージです。このアルファベットが証拠です」

「……」

黙り込む榎木の表情には僅かに不安の色が映る。

「yは幼子のy。kは怪事件、S,捜査、k、クラブ。r略して、k怪、d団――です」

真剣な眼差しで明朗に言った要に対し、それを聞いた榎木は呆れ果てたように、はあ……と長いため息を吐き出した。

「そんなの、こじ付けじゃないの!」

きっぱりと言ってのけた榎木に、要はおちゃらけるようにして訊く。

「先輩、〝こじつけ〟ついでに一つ良いですか?」

「なに?」

言って、少しむっとしたように、榎木は要をねめつけた。

「このヒントとなる『ゑ』ですが、別にひらがなを指すのなら『か』でも
『あ』でも良かったわけです。古風なおみくじみたく見せかけたかったのなら『ゐ』でも良かったわけじゃないですか。なんで『ゑ』だったんだと思います?」

「……知らないわよ」

榎木はうっとうしそうに視線を外す。

そんな榎木を見て、要はニヤリと笑んだ。

「私が思うに、これは犯人の頭文字だったんじゃないかと」

「……は?」

「つまりは『ゑ』=『え』=榎木夕菜」

この言葉を聞き、榎木の表情が一変した。
呆れを通り越して怒りに変わったのか、眉間にシワを寄せて要を睨みつける。

「いい加減にしなさい! そんなに私を犯人にしたい!? 仮にゑが人物を指しているんだとして、どうしてそれが犯人だという事になるの!? 大体、それは本当に呉野の残したものなの? 証拠は!?」

怒鳴りつける榎木の言葉を聞きながら、要は軽く頷いた。

「はい、私達もゑっていう人が犯人とは限らないと思っていましたし、呉野先
輩は殺人未遂ではないのかも知れないということは考えました。もちろん、これが呉野先輩の残した物なのかについても疑いましたよ」

「だったら!」

声を荒げた榎木に対し、要はあくまでも冷静にこう続けた。

「そこで、出てきてもらうのが『南春枝』さんです」