ポツリとこぼすようにそう漏らした榎木は、捲くし立てた。

「解るでしょ!? あなた達は事件の事を調べてる! そんなあなた達が私
のお守りの事を聞いて周ってるんだもの、もし私のお守りがどちらかの事件に関わってたら――そんなの困るでしょ!?」

「確かに、そういう心理が働く事は理解します」

冷静に要はやわらかに肯定すると、ちなみに――と質問を促した。

「先輩は呉野先輩の落ちたビルに行った事はありますか?」

「あるわけないでしょう!」

榎木が息巻くと、要はそうですかと一言だけ言った。すると、代わりに秋葉が「でも」と言って軽蔑を含んだ瞳で榎木を見た。そして、毅然と言う。

「呉野先輩を突き落としたのは――先輩だろ?」

秋葉の唐突な言葉に、榎木は驚愕して声を荒げた。

「何を言ってるの!? 今、私はあのビルに言った事はないって答えたでしょう!?それに、呉野はどうして落ちたのかまだ解ってないのよ!? それを――私が突き落としたですって!?」

憤慨して肩で息をする榎木を「まあ、落ち着いて」と要が言うと、由希がとりあえずと言って、ある写真を取り出した。

「これを見ていただけますか? 見覚えがあるはずです」

その写真は、あかねと秋葉と由希(あるいは美奈か――)が、見たことの無い人物と会話をしている様子の写真で、その人物は真面目そうな印象を受ける、あかね達よりも少し年上に見える少女だった。
その写真を見た榎木は一瞬目を丸くし、くやしそうに顔を歪めた。

「知ってらっしゃいますよね?」

あかねは静かにそう言うと、榎木の返事を待ったが、榎木は口をつぐんだ。
そんな榎木に構わずに、要が話を進める。

「この白女(白石女子学園)はさ、中学から大学までエスカレーター式じゃないですか。先輩は確か、二階堂中学からの転校生で、中3の2学期から白女に来たんですよね?」

答えを促された榎木は、渋々「……そうよ」とだけ答えた。
その返事を聞いて、要がニヤリと笑うと、秋葉がスッと前に出て、持っていた折りたたまれた紙を開いて、榎木に向って見せた。

「これ、見えるか?」

「!?」

――それは、呉野の事件現場にあった紙だった。



 二階のかい堂ゆくと中、学ぶこともおおかれど。
 陸にうちあげられた、うつくしひ貝をひらうごとく、高みをみるならば。
 南にゆかん、さすれば春にであひ、枝にはなありけり。
y。 
            k・s・k・r・k・d。

「なによ、これ?」

榎木が不審そうに言うと、秋葉に代わってあかねが言う。

「これは、呉野先輩が落ちたビルにあった物です」

このあかねの言葉に、要はにやりと笑いながら補足した。

「呉野先輩のメッセージだよ」

その言葉を聞いた榎木は一瞬、目を丸くする。その直後に「ちょっと待って」と切り出した。

「私には……ただのおみくじに見えるわ。呉野の事とは関係がないんじゃないの?」

榎木は首を傾げた。そんな榎木に、要はにこりと笑った。

「これは、まあ、一種の暗号です」

「暗号?」

「なんなら訳しましょうか?」

要に不信な目を向ける榎木に、要はそう生意気に言って話し始めた。

「まず、このゑと言うのが重要です。このゑはひらがなを抜けと言う意味です。抜いてみますね。はい、あかね」

話を振られたあかねは迷うことなく訳し、秋葉、由希が続いた。

「二階堂中学」

「陸貝高」

「――南春枝」

最後の由希の言葉に、榎木は一瞬身を震わせた。
そんな榎木を見逃さなかった要は、にやりと不敵に笑む。

「南春枝さん……先ほどの写真の方です」

どや顔を決めた要に、榎木は冷静にきりかえした。

「……そう、それで? それがどうして呉野のメッセージになるの? 呉野と春枝は知り合いじゃないのよ、顔も合わせたこともないはずだわ。そんな人の名前をどうして呉野が書くのよ? おかしいじゃない。やっぱりただのイタズラで、暗号なんて深読みよ!」

榎木の言い分に、要はぽつりと「それがそうじゃないんだなぁ」と呟いて、紙のある部分を指差した。

「ここ、見てください」