30分後・時計塔内部――

時計塔の頂上、時計の機械部分が赤裸々に見える狭い部屋に、30分前、要達はお守りを無造作に隠した。誰も来ないだろうと、部屋の中央に置かれた古びた一つの机の中に入れた。

その机に今、触れようとしている者がいた。
その者は、静かに、慎重に、しかし素早く中の物を取り出した。
掌に固く握り締められた物を想って、ニヤリと笑う。

「そんなに、それが大事ですか?」

突如部屋の入り口から声がして、その人物は振り返り、声は続けた。

「――榎木先輩」

そう言うと同時に声の主は姿を現した。

――要だ。

「な、何のこと?」

「声がうわずってるぜ」

そう言いながら、秋葉も部屋へと現れた。

「すみません先輩」

そう謝りながらあかねも現れると

「カメラで撮ってました。先輩がそれを取り出すところ」
言いながら、ビデオカメラをちらつかせた。

「ちなみにその机は撮りやすいように、部屋の隅に捨てられてたのをそこに置いたんだぜ」

得意げに秋葉が机を指差しながら言うと、由希が秋葉の影から出て来て、美奈のふりをして弱々しく微笑んだ。

「な、何なの!? あんた達!」

当惑しながら榎木が叫ぶと、要は誇らしげに笑った。

「あたし達ですか? あたし達は――」

要の言葉を合図にして、4人は勢い良く一斉に叫ぶ。

『怪事件・捜査倶楽部・略して怪団!』

――そんなことを聞いてるわけじゃないのよ! という顔の榎木を無視し
て、要は話しを始めた。

「すみませんね、先輩。先輩を少し、罠にかけさせて頂きました。呉野先輩からのメッセージがあったもので」

「なに言ってるのよ? 呉野はまだ面会謝絶じゃない」

「ええ、そうですよ。体の治療は一応済んだみたいですけど、目が覚めない。このまま目が覚めなければ、一生目覚めないかもしれないと言われてますね」

要は平然そうと答えると、榎木は訳がわからないといった様子で、呟くように言う。

「一体何なの? :::帰らせてもらうわ。私には何も関係はないでしょう?」

言って歩き出そうとする榎木に、要はにこりと微笑みながら言った。

「それがねぇ、先輩、あなたは関係があるんですよ。なぜなら、一連のこのドッペル事件は、あなたの仕業だからです」

「……なに、どういう意味よ!?」

榎木がそう吼えると、要はにやりと笑った。

「では、順を追って行きましょうか。先輩、先輩の手の中の物、見せてもらって良いですか?」

促されて榎木は手の中をそっと覗いた。そして、はっとする。
その姿を見つめながら、要は問う。

「見覚え、ありませんよね?」

この問いに、榎木は答えなかった。押し黙って眉を顰める。

「先輩、実はそれ……私のなんです」

あかねが申し訳無さそうに言うと「連次くんからのな」と秋葉があかねの横で茶化した。

「うるさい!」

あかねが秋葉を怒鳴りつける。そんな二人を無視して要はポケットからジッパー付きのビニール袋を取り出して、こう続けた。

「先輩のお探しの物は、ここにあります」

そうして、ジッパー付きのビニールをかざした。
その中には、折れ曲がったお守りが入っていた。
それを目にした榎木は「あっ……」とだけ呟いた後、絶句して言葉が出てこなかった。

「ご存知ですか?」

わざと窺うようにして聞く要に、榎木は気持ちを立て直すように「ええ」と言って続けた。

「……知ってる、知ってるわ。私のよ。でも――失くしたの。多分、誰かに盗まれたのよ!」

そう強く主張した榎木を、要は一瞥(いちべつ)して「へえ~」と感情のこもらない声で小さく言った後、にやりと口の端を僅かに歪めた。

「……そうですか、盗まれましたか」

「ええ、そうよ!」

榎木が真っ直ぐに要を見つめながら強く言うと、要は即座に冷静に言う。

「じゃあ、何故「見たことも無い」って言ったんですか?」

「――え?」

ひやりとした空気が榎木を飲み込んだ。その空気を要は逃さなかった。
嬉しそうに、にやりと頬を緩める。

「言ったでしょ? そう聞いたんだよねぇあかね?」

「ええ、確かにそう聞いたわ」

「そ、それは……ただの聞き間違いよ!」

明らかに焦った様子の榎木を、要はここぞとばかりに問い詰める。

「聞き間違いだとしても、後ろめたい事がなければすぐに自分の物だと言えたはずじゃないんですか!?」

その詰問に、榎木はグッと顔を引いて視線を床に落とした。

「……関わりたくなかったのよ」