「……しょうがないっか! 今日はもう解散にしよう」
 
要が気持ちを切り換えるようにして言うと、あかねは不満そうに「え~!?」と叫ぶ。

「なんで? 絶対怪しいじゃない!」

「あやしいけど、しょうがないでしょ~。月曜日また聞いてみるしかないでしょうよ~」

「でも――」

「あ~もう! 帰るぞ!」

食い下がろうとするあかねの言葉を秋葉が遮り、ずるずると引きずっていった。

「ちょ! 秋葉! 腕はなして一人で歩けるわよ!」

「お前はちょっとしつこいとこがあんだよ!」

「うっさいわね! ガサツ!」
 
やいのやいのと騒がしくその場を去るあかねと秋葉の背中を見送って、要は由希のほうに向かってくるりと振り返った。

「さて……由希――解るよね?」

要の見透かしたような目を見て、由希は微動だにせずに頷いた。

        
         ………… ……… ………

学園から徒歩約二十分、十階建てのマンションの五階の門の部屋が、由希の自宅だった。由希と要は特に会話もせずに由希の自宅のドアの前まで歩いてきた。
ガチャと、鍵を差し込んでドアを開けると、由希は一言呟くように言って要を促した。

「入って」

「おっじゃましま~す」

要は軽く言って玄関に入った。室内は薄暗く、静かだった。

「ただいま」

由希が短く言って「こっち」とまた要を促した。少し小さめのリビングを通って「美奈」と書かれた可愛らしいプレートが掛かっている部屋の前に通される。
要は少し真剣な表情に変わっていた。

「美奈、入ってもいい?」

「……うん。大丈夫だよ」

部屋の中からくぐもった弱弱しい少女の声が聞こえた。
ガチャリと音を立てて、由希が部屋のドアを開く。
電気の消えた室内に、布団を頭まで被り、ベッドの上にうずくまっている少女らしき人物が見えた。

「……え?……要ちゃん?」

その少女は戸惑った様子で要の名を呼んだ。要は薄く微笑んで「そうだよ」と一言呟く。

「な、なんで!? なんで連れてきちゃうの? 由希!」

少女は弱々しく言うものの、由希を責めた。由希は一息ついて降参したように言う。

「しょうがないでしょ! コイツにばれたらはぐらかしたりなんか出来ないって!」

「コイツ呼ばわりはひどいなぁ由希」

言って「ははは」と要は笑う。

「……ねえ、美奈? 別に怒ったりしない。あたしは多分、ほぼ全てを知ってる。だから、布団を取ってくれない?」

要は優しく語り掛けるように、少女に促した。

「・・・・・」

少女は戸惑った様子で、しばらく手を触ったり、指を合わせたりしていた。そんな様子を見て、由希も少し強めの口調で促す。

「美奈!」

「……わ、わかっ……た。わ、わかったよ……」

少女はおずおずと答え、ゆっくりと布団に指が伸びる。ぎゅっと布団を強く握り締めて、引いた。布団がするりと落ちる。

するとそこにいたのは、由希とまったく同じ顔、同じ髪型の少女だった。