「先輩、ちょうど良かった!」

「な、何です? 吉原、突然「先輩」なんて気色悪いです」

ぱっと顔を上げて喜んだ要を、呉野は不審に思い、顔を引きつらせて一歩後退した。そんな呉野を「まあ、まあ、見て欲しい物があるんですよ。呉野先輩」と言いながら呉野の腰を持って自分達の中心に引き寄せる。

そして「これ」と言いながら、お守りのヒモを持って、呉野の顔の前に吊るして見せた。

「知りませんか?」

呉野はそれを見た瞬間、ほんの一瞬目を見開いた。

「これ、どこで手に入れたですか?」

平然とした顔でそう聞く呉野に対し、要はちゃかしながら逆に聞き返した。

「心当たりがおありですか? 呉野ちゃん」

「年上に向って「ちゃん」づけするなです! 吉原!」

「じゃあ、呉野先輩。これ知ってるんですか?」

「……どこにあったか教えてくれたら、教えるです」

「ふ~ん、イッチョマエに言うときゃ言うんだね、呉野先輩。良いっすよ、教えます」

まるでケーキ屋を教えるかのように軽く言った要に「ちょっと待って」とあかねが止めに入ろうとすると、要はあかねの体の前に手を出し無言のまま制止した。

「これは、日吉淳子の殺人事件現場に落ちてたんですよ」

その言葉を聞いた呉野は一瞬目を丸くし、そのまま沈黙した。

「……」

「さあ、今度はそっちの番ですよ」

ニタリと要が笑うと、呉野は目線を斜め下に逸らした。

「し、知らないです」

「おいおい、嘘つけ。そんな脂汗掻いて「知らない」はないだろ」

秋葉が呆れ混じりに言うと、呉野は大声をあげた。

「し、知らないです!」

言ってからはっとなって、そのまま焦るようにきびすをかえし、瞬く間に走り去って行った。
数十秒と経たないうちに呉野の姿は見えなくなる。

「はやっ!」

その場には要のこの呟きだけが残った。