「ここでもあたし、なんか引っ掛かったんだよ」

「なにがよ?」

「俺も、何か引っかかんぜ」

「秋葉も? 一体何が引っかかるのよ?」

あかねは怪訝に、二人にそう質問をした。
すると二人は同時にこう答えた。

『返答が穏やか過ぎる』

訳が分からずにあかねは首を傾げる。
そんなあかねに要は説明を始めた。

「あの人は短気で、感情の起伏が激しいタイプなんだよ。ガキ大将みたいな感じで、気に入らない事とか言われると激しく捲くし立てる。ほら、あたしらが初めて事情を聞きに行った時「なめてんの!?」とか「刑事ゴッコでもしてるつもり!?」とか言われたじゃん?それが今回はなかった」

それを聞いてあかねは「なるほど」と呟いた。

「確かに、そんな人がそんな穏やかに話しに付き合うなんておかしいわね。だけど、事情を聞きに行った時だけ機嫌が悪かったって事はないの?」

このあかねの質問には秋葉が答えた。

「それはねぇな。あの人、感情的で短気って、運動部のなかじゃ有名なんだぜ」

「そうなんだ……」

あかねが納得すると、要は「それにね」と言って話を続ける。

「その次の日、先生に聞いてみたんだ。「2年前と今の美術準備室って何か違う所ありますか?」って。そしたら意外な言葉が返って来たのよ」

「どんな?」

あかねが聞くと同時に由希と秋葉は身を乗り出した。

「……鏡が違うんだって。元々ペア風の鏡だったんだけど、一つ捨てて新しく要らなくなった鏡を一年前に入れたんだって。一つは同じ鏡でもう一つは新しい鏡。ドッペルの時使う鏡なんだから、いくらなんでも気づくでしょ? でも日吉先輩は「変わらない」と言った。しかも1年前はその話、ちょっとの期間だけ有名な話だったんだって」

「そっか。だから高村先輩は別々の鏡を使ったのね。でも、おかしいわよね? 日吉先輩、嘘ついたってこと?」

「だと思う。あとさ、呉野先輩と三枝先輩と榎木先輩にお守りの事、誰か聞いた? あたしは捕まらなくてさ」

そう要が言うと秋葉が手を上げた。

「俺、偶然三枝先輩に会ったから聞いてみたんだけど「知らない」ってさ」と言った。

それに続いてあかねが言う。

「私は榎木先輩に会ったんだけど榎木先輩は「見た事もない」だって」

「そっか。……呉野先輩に会った人はいないの?」

要が質問すると、全員が首を横に振った。

その時、突然声がふってきた。

「ここで何してるです?」

穏やかな声がしてあかねは振り向き、要と秋葉と由希が正面を向き、声の主を見た。

その声の主は、呉野幼子だった。