「日吉は、昔から大人しめな子には意地悪だったです。それにしても……三枝もヒドイです。高村に続いて皆元と仲が良いと思っていたのに、さっさと立ち去るなんて! 榎木もそのまま帰ってしまうし……」

「何!? 三枝弘と皆元先輩って仲良かったの?」

呉野の呟くような一言に、要はすばやく反応した。
その要に「当然だ」と言うように、呉野は大きく頷く。

「そうですよ。高村と三枝と皆元でよくつるんでいたです」

「高村先輩とも仲良かったの!?」

驚きを隠せない要に「そうです」と小さく頷いて、呉野は憤慨してみせる。

「それよりさっきから先輩に対して敬語を使わないなんて、いくら『情報の毒蜘蛛』でも失礼です!」

「ああ、ごめんね」

そんな呉野の憤慨を、そっけなく受け流すように謝って、要は「うむっ」と何かを考えている。

そんな要の態度に、呉野は明らかにムッとした表情を作った。

「でも、じゃあ、誰が皆元先輩を助けたの?」

あかねが誰に言うでもなく呟くと、呉野は自信ありげに「一人しかいないじゃないですか!」と言い、胸を張る。

「ボクです!」

「……でも数時間経ってからなんだろ?」

そんなに自信たっぷりに言われても、と秋葉は呆れたように呉野を見た。
そんな秋葉に呉野は「失敬な!」と憤慨した。

「何言うですか!? すぐに助けたですよ! ものすごく恐かったですが」

「でもウワサでは……」

あかねがそろりと、気を使いつつ言おうとすると、呉野はそれを勢い良く遮った。

「そんなの噂です! 確かに日吉の名前を言わなかったのは事実ですが」

そう言うと、悲しそうに続ける。

「……あの時の事はあまり思い出したくないです。皆元の顔は涙と恐怖でひどかったです。皆元は元々、暗所恐怖症だったです。それを知りながら、皆元を押し込めた日吉も、それを見ていながら帰った三枝と榎木も許せないです。ひどいです。だから、あまり思い出したくないです。日吉をかば庇った皆元の気持ちも、ボクには理解出来ないです」

呉野はうつむきかげんだった顔をいったん上げて「それに」と付け足した。

「あのすぐ後に、つい口が滑ったとはいえ、霊感のある榎木に「憑いてる」何て言われたら、いくらあの鈍感な皆元だって狂ってしまってあたりまえです」

「え!? そんなことがあったんですか?」

あかねが驚愕して聞くと、呉野は頷きながら「あったです」とキッパリと答えた。

「何を隠そう、ボクもその場にいたです。皆元が無理やり押し入れられた数日後に、なぜか爆発的に「皆元と日吉が一緒にあの場所に入った」という噂が広まって、皆元が席をはずした時に、榎木に注目が集まったです。そしてみんな、榎木を質問攻めにしたです。「皆元さんは? 皆元さんには何も憑いてないの?」っていう質問が出た時に榎木が
「ん~……それは分からないけど、数日前に皆元の後ろに皆元に似た感じの人がいたような……でも、見間違いかも、一瞬だったし」って言ったです。しかし時すでに遅し! 皆元は教室に戻っていて、バッチリ聞かれていたです」

「それで、狂ってしまって当然ってどういう意味なんだ?」

「それは、ですね。その日から皆元は学校にあまり来なくなったです。自殺したってことは、相当まいってたってことですしね。もしかしたら本当にドッペルの仕業かも知れませんが、それは恐くて考えたくないです」

言って呉野は身震いした。

「とにかく! ボクが知ってるのはココまでです!」

そう話を終わらせて、その場を去ろうとした時、思い出したかのように振り返った。

「あんまり首を突っ込まない方が良いです。呪われちゃうですよ」

意味深に言って、呉野は歩き出した。
そんな呉野を見送りながら、由希と秋葉とあかねは少し不安そうに目線を合わせた。

その瞬間、三人の後ろから「よし!」という気合が聞こえてきて、一瞬3人は肩をすくめた。

「要、なんなのよ!? 大声なんか出して、びっくりするじゃない!!」

怒ったあかねに、悪びれた様子もなく謝って、要は飄々と言う。

「ああ、ごめんごめんあかね。まあ、そんなことより、日吉先輩にアタックに行かない?」

『はあ!?』

突然の提案に3人は一斉に首を傾げた。
そんな3人に向かって、要はまた軽く言う。

「まあ、今日はもう時間が時間だし、明日の放課後にでも会いに行きましょ♪」