部室を出てから、二時間が経過しても有力な情報はなかった。

すっかりしょぼくれてトボトボと中庭を歩く要の後ろを、苦笑しながら由希がついていった。

「ねえ、要ちゃん」

「なぁに?」

要がダレながら振り向くと、由希は軽く唇を舐めて「あのね」とか細い声で切り出した。

「要ちゃんって、誰も知らないこととか、知ってるでしょ?どうやって、調べてるの、かなぁ……って思って」

それを聞いた要は、しばらくキョトンとした顔をしていた。

その顔を微笑みに変えて言う。

「さぁねぇ、どうしてかしら?耳に自然と入ってくるんじゃない?それより、どうして由希はいつもオドオドしてるの?」

「え?」

「あたし達の前でくらい『本当の由希』を見せてくれても良いんじゃない?」

その言葉に、由希は暫く目と口を開けて間の抜けた顔をしていた。

「……それって」

「こんにちは」

由希が何かを言いかけた瞬間、誰かの声が飛んで来て、それを遮ってしまった。
二人が振り向くと、そこにいた声の持ち主は、榎木だった。

「ああ、先輩。こんにちは」

「こ、こんにちは……」

要はあまり感情がこもらない声色で挨拶を返し、由希はおずおずと小さく挨拶を返した。

(また嫌味言われんのかなぁ……?)

心の中で要はぼやいたが、榎木は要と由希をチラリと見ただけで、何も言わずに2人の横を通り過ぎて行ってしまった。

「あれ?」

怪訝そうな要を尻目に由希は、榎木の後姿を睨むような眼つきで見送った。

「なんか、何にも言われなかったね」

「う、うん」

「由希、いったん部室に帰ろうか? お弁当もまだ食べてないし」

「うん。そうだね」

部室に戻ると、秋葉とあかねが向かい合って座っていた。

「あれ? いつ戻ってきてたの?」

「今さっきよ」

「今さっきだ」

同時に答えた2人の様子が少し変なことに気づいた2人は、顔を見合わせて席に着いた。

「なに? どうしたのさ、2人とも暗い顔して」

「それがね、生徒会の会議の内容が、ちょっとヤバイ事だったのよ」

「俺は部活で聞いた話なんだけど……」

「なになに? なんなの!?」

言葉を濁す2人に、要は急かして身を乗り出す。そんな要をいったん見てから、秋葉とあかねは顔を見合わせた。

「あのね……生徒会が『あの話』をするのは禁止した方がいいって。当然、このクラブもあの話には関わるなって言われちゃって」

「あの……『あの話』って?」

あかねが困ったようにため息をつきながら言うと、由希が腕を組みながらおずおずと話に乗ってきた。

「あの話ってのは、ドッペルゲンガー、もとい、高村先輩の事でしょ?」

あかねが答える代わりに要が答えて、あかねに回答を促した。
あかねは静かに頷くと、小さく「その通りよ」と答えた。

「何でも高村先輩が死んじゃって、ドッペルゲンガーの噂が生徒の間で高まっていて、このままじゃ秩序とかあったもんじゃないし、生徒会の面目も潰れる事にもなりかねないから、噂をしている人がいたらやめるよう注意して欲しいって」

「榎木先輩じゃないよね? それ提案した人」

「それはないわね」

要の問いに、あかねはキッパリと否定する。

「言い出したのは対面とか気にする三枝先輩だから」